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を上げてにっこり微笑んだ。そして、さっさとあるきはじめてしまう。もちろん、父親たる相棒を伴って。
これは夢だ。悪夢だ……。
とっとと遠ざかってゆく副長たちの背をみながら、おれはがっくりと両肩を落とすのだった。
成人男性プラス雄の成犬ともあり、脫髮先兆 旅は思いのほか順調にすすんでいる。
この日は、江戸を発って越ケ谷宿にいたったところで腰を落ち着けることにした。
本陣や脇本陣は、わざとさけた。そのかわり、いかにも客がすくなくって寂れてる感がぱねぇ旅籠に泊まることにした。
つまり、世間一般の模範的な旅人が避けるような、そんな宿にしたのである。
いわゆる飯盛り旅籠である。はやい話が花街である。この越ケ谷宿は、日光街道のなかでも最大の花街を形成しているという。
こういう花街の旅籠は、流れやヤバイ系が立ち寄りやすい。旅籠の人たちも、それがわかっているのでいらぬ詮索をしないし、口外することはない。
その代償として、高級旅館以上の宿代をむしりとるのだ。
いわゆる、口止め料というやつである。
それは兎も角、これが旅籠だとすれば消防法もびっくりだろうし、セキュリティーはちがう世界のシステムであろう。
建物は、とりあえずは雨露はしのげる程度のひどい代物である。さらには、従業員の態度がこれまたひどい。
「そんなに仕事がいやならやめちまえ」って叫んでしまいそうになる対応である。
食事がついているようだが、期待するだけムダであろう。ってか、なにを喰わされるかわかったもんじやない。
ための宿ってこともある。ほかのサービスがおざなりになるのもいたし方のないことなのかもしれない。
よっぽど脛に傷のある輩がおおいのであろう。こんなしけた旅籠でも、どの部屋もうまっているという。厳密には、おれたちでうまってしまうという。
幸運なのかどうかはわからないが、十五、六畳くらいの部屋だけあいていて、そこにおしこまれることになった。
もちろん、ここはペット同伴可能なホテルやペンションではない。
相棒は、宿屋の裏手にある枯れた桜の木の下ですごすことになった。「おいおいぽち……。たまにはゆっくりしたらどうだ」
ボーイや仲居さんが、荷物をもってくれて部屋まで案内をしてくれるわけがない。
自分たちてま勝手にズカズカと入り込み、テキトーに唯一空いている部屋に入ったのである。
プライバシーを尊重するという役割を忘れ去っている破れまくってる障子をしめるまでもない。
俊春がでてゆこうとするではないか。
「できるだけ周囲の状況を探ってきたく……」
副長の勧めに、俊春は頭を軽く下げて神妙に応じる。
「まったく。働きすぎだ。それこそ、ストレスがたまるんじゃねぇのか?」
「副長のおっしゃるとおりですよ。ストレスをとおりこして、過労死してもおかしくないレベルです」
副長から「主計、おまえも見習ったらどうだ」って嫌味をぶちかまされるまえに、先手をうっておいた。
「カロウシ?どこの浪士のことなのだ?」
好奇心旺盛な永遠の少年島田は、あいかわらずしりたがる。
「浪士のことじゃありません。働ぎすぎて死んでしまうってことです。おれのいたところでは、そういうことがまれにあるんです」
「あははっ!ここでは、働きすぎなくっても死んでしまうことが多々あるではないか」
野村よ、たしかにそうである。働きすぎなほうが、逆に無事にすごせてるってことだ。
たしかにそうなのであるが、それって笑えることか?
「兎に角、ぽちもたまにはまったりしてはいかがですか?物見とか鍛錬とかばかりで、寝る暇もないじゃないですか。それどころか、おなじ屋根の下にいることすらないですよね」
「おかしなことを申すのだな、主計。いま、おなじ屋根の下におるではないか」
「ぽちっ、屁理屈をいわないでくださいっ!」
怒鳴ってしまってからハッとした。また相棒にうなられてしまう。ってか、その相棒はいないので、そのかわりにみんなに白い眼でみられてしまう。
「ならば主計、おまえがいってこい」
「ええ?そ、そんな理不尽な。おれには物見の要領がわかりません。できませんよ、副長」
「というわけで、この役目はわたしにしかできぬことでございます。副長、どうかごゆるりとなさっていてください。主計。おぬしも、どうぞご・ゆ・る・り・と」
俊春は、副長にはその言葉を、おれには力いっぱいの嫌味をぶちかました。それから、副長がなにかいいかえすまえに、一礼してでていってしまった。
「ったく。生真面目なのもかんがえものだな。どっかのだれかさんに見習わせたいものだ」
どっかのだれかさん?それって、おれ以外の人のことですよね、副長?
って心のなかで尋ねていると、永倉が障子をしめながらつぶやいた。
「ここにいたくないんじゃないのか?」
『ここにいたくない?』
それって、どういう意味であろうか。
部屋のうちは、ひかえめにいっても汚すぎる。老朽化ってだけではない。いつ掃除したんだろうっていうレベルでもない。
ぶっちゃけ、気色悪い。不衛生すぎる。
おれは潔癖症でなければきれい好きでもないが、ここで一夜をすごし、横になって眠るのなんて、かんがえるだけでゾッとしてしまう。
俊春のように、理由をつけてでていったほうが無難かもしれない。
「わたしもそう思いますね」
島田である。両膝を折ると、畳を軽くたたきはじめた。さいわいにも、一つだけある灯火の光源では、まきおこっているであろうダニや埃はみえない。
きっと、ものすごいにちがいない。
しかも、灯火がめっちゃくさい。
魚の脂でもつかっているんだろう。めっちゃくさい。鼻がひん曲がりそうだ。犬以上の嗅覚をもつ俊春なら、これもここにいたくない理由の一つに充分なりえるだろう。
島田がたたいたあたりに、とりあえずは胡坐をかいてみた。部屋中のダニがいっきにちかづいてくるイメージが脳内にわいたのを、
まぁ、