[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
気付けば土方の腕の中にいた。
ぴったりと引っ付いた体から感じる温もりと懐かしい匂いが鼻をくすぐった。
『一人になった時土方さんの布団借りて寝たなぁ…。』
あの時はお陰で落ち着いたんだと懐かしみ,土方の着物をきゅっと握って頬を擦り寄せた。
……がその瞬間。【脫髮】頭髮稀疏是脫髮先兆?醫生推薦生髮方法大揭秘! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
「おっ?」
ドンッと突き放された。
自分がどうなったか分からなくて,ただ目の前の土方の動作を目で追うしかなかった。
三津を軽く突き飛ばした土方は顔すらまともに向けず大股で立ち去ってしまった。
「えっ?何で?」
怒らせてしまったのかよく分からず首を傾げてその背中を見送った。
『予想外の動きするんじゃねぇよっ!!馬鹿がっ!!』
この動揺を全て三津のせいにしたかった。
思わず口にした本音,無意識に抱き留めた体。
"何するんですか!土方さんの助平!"
そう言って顔を真っ赤にして怒るのを予想していたのに。
だから応える様にしがみついてきた三津が悪い。
『あいつも俺の事を……。』
あいつ "も"。
『馬鹿か俺は…。完全に認めちまってんじゃねぇかよ……。』
三津に対する想い。
「捕まえたくなんだろうが,クソガキがっ!」
腕の中に閉じ込めた感覚を思い出しながら鼻で笑った。
屯所に戻るまでに少し冷静にならなきゃなと大きく息を吐いた。
屯所に帰って一番会いたくないのは総司。
「お帰りなさい!お出掛けなら一声かけてくれたら良かったのに~!私も行きたかったなぁ!!一緒に。」
一番会いたくない相手に満面の笑みで出迎えられた。
「誰がお前なんか連れてくか。呉服屋に行っても楽しかねぇだろお前は。」
「弥一さんの所へ行ってたんですか。ふーん。」
本当にそこだけですか?と土方の周りをちょこまかと回りながら疑いの眼差しを向けた。
その察しの良さには嫌気がさす。大股で部屋に戻ろうとする土方とつきまとう総司を,縁側で将棋をさしてた原田,永倉,藤堂が面白がって見ていた。
「弥一さんの所へ行ったなら聞きました?三津さんの縁談の話。」
「あ!?あいつそんな事一言も言わな…。」
時すでに遅し。目の奥が笑ってない笑顔がじっと見つめてくる。『しまった…。』
こんな単純な誘導に引っ掛かった自分が情けないが今はそんな事どうでもいい。
これ以上しつこく付きまとわれるのは御免だ。
「会ったんですね?三津さんに。いいなぁずるいなぁ。」
「えっ土方さんお三津に会いに行ったの!?」
それはずるいと藤堂が騒ぎ立てた。
「違うっ!帰り道にあいつが居ただけだ!」
会えるかもしれないと望みを持ってその帰り道をわざわざ変えたとは口が裂けても言えない。
あまりにも騒がしいから斎藤が自室から顔を覗かせた。
いいところに顔を出した。土方が見逃すはずはなく,ここぞとばかりに声を張り上げた。
「そういやぁ三津と初詣に行ったおめでたい奴がいるんだがなぁ。」
『げっ!』
斎藤は部屋から顔を出した事を心から後悔した。
土方の底意地の悪い笑みがそこにはあった。
「なんですって?」
総司の眉毛がつり上がる。そしてゆっくりと土方の視線を辿り斎藤の方を見た。斎藤の目線は明後日の方向へ向いた。
「斎藤さん…それは本当ですか?」
目の奥が笑ってない笑顔と向き合う事なく斎藤は黙って障子をぴしゃりと締めた。
「あ!斎藤さん!!」
総司が斎藤に気を取られてるうちに土方は部屋へ逃げ込んだ。
「お帰り,お三津ちゃんは元気そうだったかい?」
逃げ込んだのは近藤の部屋。
全部聞こえていたよと走らせていた筆を止めて土方に笑みを投げかけた。
「あぁ,あの馬鹿石段に腰掛けて居眠りしてやがった。」
それを聞いて近藤は豪快に笑った。
「それは良かったすっかり元の生活に戻れたようだ。
怖くて外も歩けなくなっていないか心配だったが大丈夫みたいだ。」
「隙だらけだクソガキが。長生きしねぇぞ。」
どっかり胡座をかいて壁に体を預けて目を閉じた。
廊下からは総司達の騒がしい声がしている。
「みんなお三津ちゃんが恋しいんだな。私も会いたいね。」
「局長命令なら連れてくるぜ。」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるが近藤はいやいやと穏やかに笑った。
『いっそ命令してくれればいいのによ。』
そうすれば堂々と三津をここへ連れ戻せる。
そしたら今度は離さないのに。
「斎藤さんも笑うんや。」
「俺も人間だからな。」
三津に物珍しそうに見られているが,気配を感じない三津の方がよっぽど珍しい。
三津がどんな人間か気になる。tote bag 男 香港
ただ部屋で膝を突き合わせるだけじゃ何も分からない。
「町にでも行くか…。」
外へ連れ出したらどんな行動をするか興味がある。
斎藤は独り言のように呟くとゆっくり立ち上がった。
「私も?」
「当たり前だ。」
ここで置いて行っては小姓として借りた意味が無い。
「やったぁ!」
久しぶりに町に出れるとあって両手を高々と上げて喜んだ。
「腕を出すな。それより支度はいいのか?髪を結うだの紅を引くだの。」
子供のようにはしゃいでいた三津が露骨に嫌そうな顔をした。
「斎藤さんが連れて歩くの恥ずかしいって思うなら頑張りますけど…。」
出来たらいつものままがいいと口を尖らせた。
「別に構わん。散歩程度だ。」
興味があるのは三津の中身,把握したいのは気配であって見た目は関係ない。
「では行くぞ。」
三津は嬉々として首を縦に振り,斎藤の背中を追いかけた。
「あのさぁ,お三津取られて悔しいのは分かるけどその顔止めなよ。土方さんじゃあるまいし…。」
平隊士たちが怖がると平助が総司の顔を覗き込む。
目も合わせてくれないし,ピリピリした空気が漂う。
「…男の嫉妬は見苦しいぞ?」
冗談っぽくおどけて振る舞うが冷ややかな目を向けられた。
あの後捕まえた隊士たちを目の笑ってない笑顔で容赦なく滅多打ちにして,
「あー楽しかった!」
とか言ってみるも完全に負け惜しみ。
これ以上被害者を出す訳にもいかないと,永倉と原田に立ち上がらせられた平助。
『こう言う役はいつも俺なんだから…。』
総司の気を紛らわすべくこうして縁側で将棋を挿しているのだが,
『全然将棋に集中しないじゃん…。』
総司は眉間にシワを寄せ,腕を組み完全に不貞腐れている。
「そんなんじゃありません!
私は三津さんを貸し借りだなんて物のように扱ってるのが許せないんです!」
『だからそれは三津に特別な感情があるから許せないんだろ?見事な嫉妬じゃん…。』
とは心の中で思うが,今の総司には何を言っても無駄だと分かる。
言葉の代わりに深い溜め息をついた。
歩いてはちらり。
また歩いてはちらり。
『いるよな。確かにいるんだが…。』
斎藤は跳ねるように後をついて来る三津を確認する。
「嬉しいのか?」
「はい!」
これだけ感情を全面に押し出しているのにその存在は空気そのもの。
別に不快感はないけどあまり背後に居て欲しくもない。
『行き先も告げてないのにな。単に町へ行くだけでこれほど上機嫌になるとは。』
「何が嬉しい?」
そう聞かれて三津は足を止めて指を折り始めた。
「外に出れたのと,行くのが町なのと,土方さんから解放されたのと…。」
「もういいぞ…。」
聞いてたら長くなりそうだから止めた。とにかく嬉しいのは分かった。
「あと斎藤さんが私の気配を知ろうとしてくれてる事。
私も斎藤さんの事よく知らんからなぁ。」
こうして出掛けられるのが嬉しいとにこにこ笑う。
「そうか。お前の実家はどこだ?」
再び歩みを進めながら問いかけた。
やっぱり背後に居られては落ち着かないから横に並ばせた。
三津は四方の山々を見渡して,あっちだったかこっちだったか。
右に左に目を動かして首を捻った。
「一体誰があんな山奥からあんたを連れて来たんだ。」
「生まれは多分あの山の向こうやけど町には去年から居ましたからね!
甘味屋で居候しながら働いてた所を土方さんに捕まったんですよ。」
山奥で捕まったんじゃないし,昨日今日で出て来たんじゃないと頬を膨らませた。
『捕まった…。』
その表現が何ともしっくりはまり過ぎていて吹き出してしまった。
を上げてにっこり微笑んだ。そして、さっさとあるきはじめてしまう。もちろん、父親たる相棒を伴って。
これは夢だ。悪夢だ……。
とっとと遠ざかってゆく副長たちの背をみながら、おれはがっくりと両肩を落とすのだった。
成人男性プラス雄の成犬ともあり、脫髮先兆 旅は思いのほか順調にすすんでいる。
この日は、江戸を発って越ケ谷宿にいたったところで腰を落ち着けることにした。
本陣や脇本陣は、わざとさけた。そのかわり、いかにも客がすくなくって寂れてる感がぱねぇ旅籠に泊まることにした。
つまり、世間一般の模範的な旅人が避けるような、そんな宿にしたのである。
いわゆる飯盛り旅籠である。はやい話が花街である。この越ケ谷宿は、日光街道のなかでも最大の花街を形成しているという。
こういう花街の旅籠は、流れやヤバイ系が立ち寄りやすい。旅籠の人たちも、それがわかっているのでいらぬ詮索をしないし、口外することはない。
その代償として、高級旅館以上の宿代をむしりとるのだ。
いわゆる、口止め料というやつである。
それは兎も角、これが旅籠だとすれば消防法もびっくりだろうし、セキュリティーはちがう世界のシステムであろう。
建物は、とりあえずは雨露はしのげる程度のひどい代物である。さらには、従業員の態度がこれまたひどい。
「そんなに仕事がいやならやめちまえ」って叫んでしまいそうになる対応である。
食事がついているようだが、期待するだけムダであろう。ってか、なにを喰わされるかわかったもんじやない。
ための宿ってこともある。ほかのサービスがおざなりになるのもいたし方のないことなのかもしれない。
よっぽど脛に傷のある輩がおおいのであろう。こんなしけた旅籠でも、どの部屋もうまっているという。厳密には、おれたちでうまってしまうという。
幸運なのかどうかはわからないが、十五、六畳くらいの部屋だけあいていて、そこにおしこまれることになった。
もちろん、ここはペット同伴可能なホテルやペンションではない。
相棒は、宿屋の裏手にある枯れた桜の木の下ですごすことになった。「おいおいぽち……。たまにはゆっくりしたらどうだ」
ボーイや仲居さんが、荷物をもってくれて部屋まで案内をしてくれるわけがない。
自分たちてま勝手にズカズカと入り込み、テキトーに唯一空いている部屋に入ったのである。
プライバシーを尊重するという役割を忘れ去っている破れまくってる障子をしめるまでもない。
俊春がでてゆこうとするではないか。
「できるだけ周囲の状況を探ってきたく……」
副長の勧めに、俊春は頭を軽く下げて神妙に応じる。
「まったく。働きすぎだ。それこそ、ストレスがたまるんじゃねぇのか?」
「副長のおっしゃるとおりですよ。ストレスをとおりこして、過労死してもおかしくないレベルです」
副長から「主計、おまえも見習ったらどうだ」って嫌味をぶちかまされるまえに、先手をうっておいた。
「カロウシ?どこの浪士のことなのだ?」
好奇心旺盛な永遠の少年島田は、あいかわらずしりたがる。
「浪士のことじゃありません。働ぎすぎて死んでしまうってことです。おれのいたところでは、そういうことがまれにあるんです」
「あははっ!ここでは、働きすぎなくっても死んでしまうことが多々あるではないか」
野村よ、たしかにそうである。働きすぎなほうが、逆に無事にすごせてるってことだ。
たしかにそうなのであるが、それって笑えることか?
「兎に角、ぽちもたまにはまったりしてはいかがですか?物見とか鍛錬とかばかりで、寝る暇もないじゃないですか。それどころか、おなじ屋根の下にいることすらないですよね」
「おかしなことを申すのだな、主計。いま、おなじ屋根の下におるではないか」
「ぽちっ、屁理屈をいわないでくださいっ!」
怒鳴ってしまってからハッとした。また相棒にうなられてしまう。ってか、その相棒はいないので、そのかわりにみんなに白い眼でみられてしまう。
「ならば主計、おまえがいってこい」
「ええ?そ、そんな理不尽な。おれには物見の要領がわかりません。できませんよ、副長」
「というわけで、この役目はわたしにしかできぬことでございます。副長、どうかごゆるりとなさっていてください。主計。おぬしも、どうぞご・ゆ・る・り・と」
俊春は、副長にはその言葉を、おれには力いっぱいの嫌味をぶちかました。それから、副長がなにかいいかえすまえに、一礼してでていってしまった。
「ったく。生真面目なのもかんがえものだな。どっかのだれかさんに見習わせたいものだ」
どっかのだれかさん?それって、おれ以外の人のことですよね、副長?
って心のなかで尋ねていると、永倉が障子をしめながらつぶやいた。
「ここにいたくないんじゃないのか?」
『ここにいたくない?』
それって、どういう意味であろうか。
部屋のうちは、ひかえめにいっても汚すぎる。老朽化ってだけではない。いつ掃除したんだろうっていうレベルでもない。
ぶっちゃけ、気色悪い。不衛生すぎる。
おれは潔癖症でなければきれい好きでもないが、ここで一夜をすごし、横になって眠るのなんて、かんがえるだけでゾッとしてしまう。
俊春のように、理由をつけてでていったほうが無難かもしれない。
「わたしもそう思いますね」
島田である。両膝を折ると、畳を軽くたたきはじめた。さいわいにも、一つだけある灯火の光源では、まきおこっているであろうダニや埃はみえない。
きっと、ものすごいにちがいない。
しかも、灯火がめっちゃくさい。
魚の脂でもつかっているんだろう。めっちゃくさい。鼻がひん曲がりそうだ。犬以上の嗅覚をもつ俊春なら、これもここにいたくない理由の一つに充分なりえるだろう。
島田がたたいたあたりに、とりあえずは胡坐をかいてみた。部屋中のダニがいっきにちかづいてくるイメージが脳内にわいたのを、
まぁ、
で、こくこくと頷きつつ、それを受け取る。
「おっと、この道具はいただいておくぞ。このあと、おぬしらにかわってわれらが村の衆にふるまうゆえ」
俊冬の言葉に、EGFR肺癌 間者たちはうなずくしかない。どっちにしても、あの腕前では、飴売りをつづけてもしょーがないだろう。だいいち、双子のいる半径100キロ以内に、とどまることすらできないであろうから。
「たま。腕は兎も角、長州勢は気前がいい。材料は、たんと準備しております」
逃げ去る間者たちの背をみ送っていると、俊春が道具をあらためてから告げる。
「鉄、銀。村の衆に、飴を馳走するとふれまわってくれ。無論、にもな」
「はい、たま先生」
二人の返事が、ツボに入ってしまう。
ぞくぞくと集まってくる人々。双子は、一人一人のリクエストにこたえ、つぎからつぎへと飴細工をこさえてゆく。
相棒にもつくってくれた。なんと、できあがったら相棒だった。
それを、相棒の眼前にかかげてみせる。
相棒は、鼻をひくひくさせつつ、頸を右に左に倒す。
「すっごく似てるよな、相棒。舐めても大丈夫なよう、ちいさめにつくってくれてる。なめるか?」
ふんっと、いつものようにツンツンだが、気にいっているのはわかる。が喰いついている。
「すぐにはもったいない?そっか。じゃぁ、もうしばらくしてからな」
そういいおいてから、懐紙にくるんでおく。
ちいさいが、がっしりしているので折れたり割れたりってことはないはず。軍服の胸ポケットにいれておくことにする。「おお、よかった。まだやってくれていたか?」
気がつけば、すっかり暗くなっている。他出していた局長や副長、島田や野村がやってきた。そのてきはじめて、だいぶんとが経っていることに気がついた。
それほど、双子の飴細工づくりに夢中になっていたというわけだ。
ニコニコ顔の局長のはずんだ声に、こちらまで笑みを浮かべてしまう。
みると、局長や副長だけではない。金子もいる。隊士のほとんどがここにいるので、金子が連れてきてくれたのだろう。
「すばらしい」
局長は、市村と田村に金魚と雉をみせられ、子どものようにを輝かせている。
「お好きなものを、おつくりします」
「ならば、関羽はどうかな?」
俊春に提案され、すぐにリクエストする局長。
大好きな「三国志演義」の関羽をリクエストするあたり、さすが局長といったところか。
それにしても、現代でこそ、漫画やアニメでその容貌をイメージできるが、この時代、草双紙などからどれだけイメージできるのだろう。
「承知いたしました」
そして、にっこり笑って快諾する俊春。すぐに、つくりはじめる。
その間に、俊冬が副長をさりげなくはなれたところへ連れてゆき、さきほどの間者の件を報告する。
こちらからみていても、副長のが、驚愕から苦笑へ、最終的には満足気なものへと変化してゆくのがわかる。
副長は、双子の対応に信を置いている。まぁ、「でこちんの助」と「でこぴん野郎」のくだりは別にして、生かしてかえしたというところは、それが妥当だと判断しているにちがいない。
しかも、手土産までもたせて・・・。
宝玉っぽいものを護る狼と龍の飴細工をみ、東征大総督府の補佐として下向している大村は、どう考え、どうかんじるであろう。
「副長は、なにがよろしいでしょうか。失礼いたしました。内藤副隊長、でしたな」
「ああ?内藤?自身でも忘れちまってるし、いまではすっかり副長に戻っちまってる。かまわねぇよ、副長で」
こちらへ戻ってきつつ、俊冬の言葉に副長が苦笑している。
そうだった。おれも、副長って呼んでしまっている。副長は、副長だ。内藤副隊長ってガラじゃない。
「そうだな。やはり、おれであろう?」
「承知いたしました。ならば、わたしが」
さすがは、ナルシスト。自分自身をモデルに飴細工をつくってくれ、なんて、フツーこっぱずかしくていえたもんじゃない。
副長なら、なにか商売をはじめたりマンションでもおっ建てたら、なんの迷いも抵抗もなく「土方歳三」と屋号やマンション名をつけるにちがいない。
「おおっ!これはすごい。これぞ関羽。いまにも動きだしそうだ」
うしろで、局長の歓喜の叫びと人々のどよめきがおこった。
局長だけではない。隊士や子どもたち、村人や金子も、飴細工の
は誰なのだろう。また桜之丞という人の記憶なのだろうか、と右胸の刻印に手を当てると、ズキンと強い痛みが走る。
『鬼切丸よ、どうか叶うなら彼女から僕の記憶を消し去ってくれ。愛しい人が涙に暮れることがないように。道を迷わせないように』
するとその様な声が脳裏に響いた。artas植髮 鬼切丸というのは、所有しているはずの太刀の名だ。そしてこのような言葉は掛けられたこともない。
その時、桜司郎はある事に気付いた。薄緑は藤から貰ったが、鬼切丸は元々誰の刀だったのだろうかと。白岩から受け取ったことは朧気に覚えているが、あれは彼の刀では無かった。
そこの記憶がまるで作為的に切り取られたかのように、すっかり抜け落ちている。つぎはぎの記憶は所々不自然な箇所があった。
──京に来て、新撰組から追い掛けられた私を助けてくれた人は誰?高杉さんでも、桂さんでも無かったことは覚えているのに、その人の事だけ思い出せない。
──私は何故あの夜、自害しようとしたの?何に絶望したの……?
だが、その問いに答える者は誰も居なかった。それどころか、思い出そうとすればする程に何かの力が働いたかのように忘れていく。
気付けば夢の中の人物の顔がもう思い出せなくなっていた。残されたのは、虚しさに似た感情だけ。
「……ずるい、人」
桜司郎は誰に向けたか分からない言葉をポツリと呟くと、目を閉じた。だが、また同じ夢を見ることは無かった。
何故、神の悪戯のようにあの夢を見たのかは誰にも分からない。ただ出来るのは焦らずに一つ一つ糸を手繰り寄せることだけだった。
様々な思いを残して、時は進んでいく── 翌日。日が傾き、嵯峨野の山に夕陽が消えていくのを西本願寺の門前で沖田と永倉、松原は見ていた。
「遅いですねェ……。文では確か、今日帰ってくると書いてあったのでしょう?」
門に持たれかかりながら、沖田は呟く。ケホケホと乾いた咳をすると、それを永倉が横目で見た。
「おい、総司。最近妙に咳してやがるな。風邪か?」
「そうですか?暖かくなってきたから、大丈夫だと思うのですが……」
そう返しながら、沖田は咳の頻度が増えた自覚がある。加えて、少しだけ身体が重だるいような、微熱があるような気がした。
その会話を横で聞いていた松原は沖田の顔を覗き込む。
「沖田センセ、風邪を甘く見たらアカンで。いくら若くて元気やってもな、拗らせたらがやられてまうこともあるんやって」
「大袈裟ですよ……。私は身体は強い方ですからね。って、松原さん、永倉さん!あれあれ!」
苦笑いを浮かべた沖田は門の外を覗くように額に手を翳す。夕闇から複数の人影が歩いてくるのを見付けたのだ。永倉と松原の着物の袖を無邪気に引っ張る。
顔は見えずとも、それが誰なのかは彼らには分かった。
「わ、ワシッ!局長らに伝えてくるわッ」
松原は土方らの帰営を伝えるべく、屯所へ走る。総門を潜って土方を先頭に伊東、斎藤と続いた。
永倉は労いの声を掛けつつ目で藤堂の姿を探す。 にて桜司郎と談笑しながら歩くその姿を見付けるなり、永倉は身体の力が抜けるのを感じた。此処に戻ってきたという事は、山南の死を乗り越えたということである。良かった、と永倉は顔を歪めると藤堂に向かって走り出した。
「平助ッ!」
「あッ、新八さんだ〜。ただいま!」
そのような永倉の気持ちも知らず、藤堂は呑気な返事をする。永倉がガバリとその肩へ腕を回すと、藤堂は勢いに呑まれて前へつんのめった。
「アハハッ、痛いって!全く……馬鹿力なんだからさァ」