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「他ならぬイザベラの事だから、オイラも手を貸したいのは山々なんだけど、今回は自分のやるべき事を優先するよ。ハンベエが付いてれば心配ないしね。オイラは当初の腹づもり通り、ゲッソリナで物流の商いを起こす。そうして、ザック達孤児連も引き入れて生計の一助にもするんだ。やるやると口先ばかりで、都合を窺ってばかり居ては物事は始まらないからねえ。」
「そうか、安心した。良い思案だ。偉いぞ、ロキ。」
「本当はハンベエにも手伝って欲しいんだけどお。ハンベエに商人はどう見ても無理だからねえ。本当にハンベエって戦以外出来る事が無さそうで心配だよお。」
とロキは本当に心配そうにちょっと顔を曇らせた。
これにはハンベエも少し心外らしく、不満げに顔を歪め、
「そんな事は無い。そうだなあ、商人は無理でも職人なら行けるかも知れん。」
「えええ・・・・・・職人? ハンベエがあ? 職人って何を作るんだよお。剣とか? 鎧とかあ?」
「俺は・・・・・・俺は・・・・・・そうだ、俺は風呂が作れる。風呂職人になら、成れる・・・・・・はずだ。」
「あっ・・・・・・本当だ。良かった。ハンベエ、人を斬る事以外にも出来る事あるじゃないかあ。本当に良かったよお。」
ロキは初めて気が付いたとばかりに目を輝かせて、真から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
このロキの反応に、ハンベエはやはり不服そうに苦い顔をしていた。「ハンベエ・・・・・・一つ聞いても良い?」
イザベラの相談事も纏まり、ロキの軽口に苦い顔を浮かべるハンベエにオズオズとした問い掛けが降って湧いた。
皆が目を丸くして一斉に注目した問い掛けの主は又々ハイジラであった。
「喋れるのか? 喋れるようになったのか。」
案に違わず、ハンベエも驚いた様子だ。前回、ハイジラがロキに話し掛けた席にハンベエは居なかった。ハンベエとしてはハイジラを気絶させてから初めて聞く肉声であった。
「何か突然喋るようになったんだよ。と言っても、口を利いたのはこれでまだ二回目だけど。」
イザベラがハンベエに説明した。
「そうなのか・・・・・・。まあ良い。で、ハイジラ。俺に聞きたい事って何だ。」
とハンベエはハイジラに向き直った。
「あの時、私がハンベエを殺そうと襲い掛かった時、何故私を斬り殺さなかったの?」
ハイジラは真っ直ぐにハンベエを見詰めて問うた。その表情には些かもハンベエに対する恐れは無い。むしろ何かしらの親しみを感じているのではないかと思えるほどだ。
「何故と問われてもな。返事に窮するぜ。まあ、何となく殺す気が起きなかっただけなんだが・・・・・・。殺した方が良かったのかな?」
小首を捻りながら、戸惑いを隠さずにハンベエは問い返した。
(この辺りだよな。ハンベエが妙に誤解されるのわあ。そんなわけ有るはず無いじゃないかあ)
間の抜けたようなハンベエの顔にロキは吹き出すのを堪えた。
「うううん、死ななくて良かった。生きていれて良かった。」
とハイジラは首を横に振った。
「私、生まれてから今が一番幸せなんだ。みんな優しいし、王女様の周りに居る人はイザベラもロキもみんな優しい。こんなに優しい人達に囲まれた事なんて今まで無かった。」
そうハイジラはハンベエを見詰めたまま言った。何の衒いも無い、率直で素直な感情をそのまま言葉に出しているようだ。
(しかし、何で又俺にそんな話をする。)
とハンベエは奇妙に感じた。これまでも度々有った事であるが、時としてハンベエは人から剥き出しで生な感情を遠慮無くぶつけられる事がある。ヒョウホウ者を標榜し、呵責無く人を刻んで世を罷り通って来たハンベエに対してである。これも人徳の一種なのであろうか。ハイジラも又唐突にハンベエに感情をそのままぶつけていた。「それに、とても素敵なお姉さんが二人も一遍に出来たし、生きてて良かったと思えてしょうが無いの。」
続けてハイジラは言い、イザベラの方を見てニコニコしている。
何だそりゃ、と言う顔をするハンベエに、ロキがイザベラ、エレナ、ハイジラが女同士の義兄弟の誓いを立てた一件を耳打ちした。