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itsuki85

「十二時に札幌駅の

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「十二時に札幌駅の

「十二時に札幌駅の西改札で待ち合わせね。今から準備すれば余裕で間に合うでしょ。よろしくね」

 

 

「待ってよ、私行くなんて言ってな……!」

 

 

けれど無惨にも私がまだ話している最中に電話は切られてしまった。

 

 

私の母は、とにかく強引な人だ。

自分の言うことが正しいと思い込んでいる節があり、自分の常識からかけ離れているものは受け入れない。

 

 

既に母に振り回されることには慣れているけれど、us stock trading正直一緒にランチなんて気が重い。

 

 

でも、これで待ち合わせ場所に行かなければ、きっとかなり面倒な展開になるに違いない。

私は深い溜め息をつきながら、ベッドから体を起こし出掛ける支度を始めた。

 

 

急に母に用事が入り、ドタキャンしてくれないだろうか。

そんなことを願っていたが、もちろんそんな都合のいいことは起きない。

 

 

結局十二時に待ち合わせ場所へ行くと、母は背筋を綺麗に伸ばして立ち、私を待っていた。

 

 

「お母さん、お待たせ」

 

 

「蘭、遅い。もう待ちくたびれちゃったわよ」

 

 

「何言ってんの。時間通りに来たじゃない。ほら、ランチでしょ。早く行こ」

 

 

落ち着いて話したいという母の希望で、和定食が美味しいと評判の個室のある店に入った。「久し振りね。元気だったの?お正月に帰ってきて以来、顔見せに来なかったわね」

 

 

食事の注文をし終えた直後から、母のスイッチが入ってしまった。

 

 

「仕事、そんなに忙しいなら夜勤のない職場に転職するのもアリだと思うわよ。クリニックでも、高いお給料貰える所はあるでしょう」

 

 

「私は今の職場が好きなの。だから、職場を変えたいなんて思ったことないし」

 

 

職場の人間関係は良くも悪くもない。

同僚から陰口を聞かされることもあるし、不快な思いをしたこともある。

でも、嫌いだと思う人はいない。

 

 

他の病院に転職したところで、また同じような人間関係が待っていることは簡単に想像出来てしまう。

 

 

ただ、もしも今働いている病院に依織がいなければ、私は転職を繰り返していたかもしれない。

 

 

「そりゃ夜勤は年齢を重ねる度にキツくなってきてるけど、うちの病院は給料水準高い方だから」

 

 

「そんなに必死になって自分で稼がなくても……結婚すれば、もっと楽になれるのよ。相手の収入があれば、生活にも余裕が生まれるでしょう?」

 

 

私が実家に帰りたくない理由は、この毎回繰り返される母の小言に心底嫌気が差しているからだ。親として、娘の将来を案じる気持ちは凄くよくわかる。

母の友人の子供は皆結婚して出産していて、孫がいる。

私は一人っ子だから、母が早く孫の顔を見たいという気持ちもわかっているつもりだ。

 

 

でも、わかっているからといって、それを実現出来るとは限らない。

 

 

だって私は、女性に恋をしているのだ。

今から男性に恋をするなんて、絶対に無理だ。

これまでの人生で、一度も男性にときめいた経験がないのだから。

 

 

でも、それを母に言えば、きっと絶縁されてしまうだろう。

 

 

小言を言われるのは嫌なくせに、絶縁されるのは怖いのだ。

 

 

「蘭、今まで私やお父さんに一人もお付き合いしている男性を紹介してくれたことないけど、今は付き合ってる人はいないの?」

 

 

「いない」

 

 

「あなたねぇ……待っていれば白馬の王子様がやって来るなんて思ってるんじゃないでしょうね」

 

 

「私が白馬の王子様に夢見るようなタイプだと思う?」

 

 

……思わないわ」

 

 

母はお茶を飲みながら、わかりやすく落胆している。

申し訳ないという気持ちはある。

でも、こればかりはどうしようもないのだ。

 

 

好きでもない男と結婚して家庭を作り、偽りの人生を送るくらいなら、一生依織に片想いの方がマシだ。「そんな落ち込まないでよ。もし彼氏が出来たら、今度はちゃんと紹介するから」

 

 

「そんなの待ってたら、いつになるかわからないでしょ?だから私、いいもの持ってきたのよ」

 

 

先ほどまで落ち込んでいたはずの母は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。

本能で、嫌な予感がした。

 

 

母が鞄の中から取り出しテーブルに並べたのは、一枚の写真とA4サイズの用紙の束だった。

写真には、知らない男性の顔が写っている。

四十代前半くらいだろうか。

痩せ型でいかにも真面目で神経質そうな、私が苦手とするタイプの男だ。

 

 

「うわ、またお見合い写真?」

 

 

「その通り、お見合い写真よ。私の知り合いの友人の息子さんなの。年齢は三十八歳、安定の公務員よ。一度会ってみたらどうかしら」

 

 

「却下。生理的に受け付けない顔してるから、無理」

 

 

A4サイズの紙には、彼のプロフィールなどがぎっしりと記載されている。

けれど当然読む気にはなれず、そのまま母に突き返した。

 

 

「彼、好青年だと思うわよ。少し女性に奥手なところがあるらしいけど、バツイチとかじゃないし。真面目で穏やかでいい人そうじゃない」

 

 

「そうね。でも、断っておいて」

 

 

母とのこういうやり取りは、初めてではない。

こうやってお見合い写真を見せられたのは、もう何度目なのか数えられないくらいだ。「お母さんが持ってくる写真の男って、皆傾向が似てるよね。真面目なサラリーマンタイプで、ギャンブルとか興味ありませんみたいな」

 

 

「ギャンブルなんてやらない方がいいに決まってるでしょう?男性は真面目で優しくて、誠実な方がいいのよ」

 

 

「でも、そういう男が意外と裏で浮気したり不倫してるんだよね」

 

 

男性に対して不信感を抱いているわけではない。

けれど、魅力的だと思えるような男性に出会ったことは一度もない。

 

 

必死に探せば、依織以上に好きになれる人がどこかにいるのだろうのか。

 

 

「あんたね、いい加減にしなさいよ。理想ばかり高くても、幸せになんてなれないのよ」

 

 

「じゃあお母さんは、私が無理して結婚生活を送ることが幸せだと思うの?」

 

 

「一生独身でいるよりは、幸せだと思うわよ」

 

 

互いに火花を散らせているところで食事が運ばれてきたため、私と母の言い合いは一時休戦となった。

 

 

母が悪いわけではない。

でも私も、自分に非があるとは思っていない。

だから、どちらも譲れずにいつも同じことで言い争ってしまう。

 

 

けれど、どんなに母を怒らせ悲しませてしまったとしても、私は同じ女性を好きになったことを悪いことだなんて思いたくないのだ。
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